国家戦略と資金投入

2000年以来、臓器移植は、主要な包括的未来産業の一つとして、中国のグローバルな発展の原動力と位置付けられました。中国政府は戦略的産業として国家戦略で優先付けました。移植技術の研究、開発、人材養成にかなりの投資をはかり、急成長する移植産業のニーズに対応しました。

主な国家プログラムや中央政府の資金が、かなりの数の臓器移植プロジェクトに割り当てられています。医科大学、大学附属移植センター、軍・民間の病院のほとんどは、異なるレベルの政府から多額の資金を受けています。

2000年以来、政府は臓器移植を複数の政府機関に及ぶ「五カ年計画」に継続して組み込んできました。「五カ年計画」とは、社会的・経済的開発のイニシアティブを設定するもので、中国共産党中央委員会の本会議と全国人民代表大会を通して中国共産党が形づくる経済発展のための国家計画です。

2004年、中華人民共和国のための健康・科学・技術開発の「第10回五カ年計画」において、臓器移植技術が主要な研究分野・重要技術として位置づけられました。2008年の「第11回五カ年計画」では、国家科学技術支援計画の主要な研究課題に加えられています。2011年の「第12回五カ年計画」でも、国家科学技術支援計画の多くの特別計画に臓器移植は盛り込まれました。

移植手術は国家戦略の優先事項であるため、軍・民間の移植センターなどの多くの移植関連プロジェクトが、863計画、973計画に組み込まれ、資金を得てきました。

中国の973計画（国家重点基礎研究発展計画）は国家戦略が要求するものを指針とする基礎研究と主要開発のためのプロジェクトです。「発展・先進・包括」を意味し、中国の重要な科学技術の開発を率いる役割を果たします。

863計画（国家ハイテク研究発展計画）は、長期的な開発と国家安全における技術高度化に取り組むことを目的とします。「戦略・先端・先見」を意味し、独立した知的所有権をもって高度技術を開発し、高度技術の統合・応用を協調し、未来産業の開発をリードするプロジェクトとして設定されています。

免疫抑制剤や臓器保存液など、移植手術における技術的難題を克服するために多くの民間・軍の研究所が設置されました。例えば、上海長征医院（第二軍医大学長征医院）のウェブサイトによると、同医院の臓器保存液は中国の病院の98%で用いられています¹。

軍、中央政府、地方政府は、臓器移植の基礎研究開発と産業化推進のために国内の医療機関に多大な資金を投資しました。この戦略は下記の例から見ることができます。

天津第一中心医院の東方臓器移植センターはアジア最大の移植センターです。同センターの主任、沈中陽（シェン・ジョンヤン）医師は、「中国での肝移植の父」と呼ばれ、中国人民武装警察部隊総医院の臓器移植研究所所長でもあります。「863計画」臓器移植主要技術プロジェクト首席専門家、「863計画」生物・医学技術分野の主題専門家に指名されています²。

浙江大学付属第一医院は中国東部最大の移植センターを誇ります。近年、肝移植センターでは40以上の国家プロジェクトをこなしました。中には1000万元以上の資金を受けたものもあります。973計画の下記の2つの科学研究プロジェクトでは同センターが中心の役割を果たしています³。

(2003～2008年) 「慢性移植片の免疫メカニズムの応用における基礎研究」
(2009～2013年) 「臓器移植の免疫応用に関する基礎研究」

さらに第11回五カ年計画の主要技術研究開発プログラムのもとにある863計画では3つのプロジェクト、国家自然科学基金に支援された2つのプロジェクトで中心的役割を担いました。さらに同センターでは、長江学者革新開発チームプログラムの融資を受けたプロジェクト、衛生部専門基金の支援を受けたプロジェクトも行われました⁴。

中山大学第一付属医院の臓器移植科は、50以上の研究プロジェクトに従事しました。過去3年での863計画、第12回五カ年計画の主要技術研究開発プログラム、国家自然科学基金プロジェクトが含まれます⁵。

同移植科の学術面を率いる何暁順（ハ・シャオシュン）は17以上の研究プロジェクトを監督し、その合計資金は1300万元以上に昇ります。1996～1998年は、この分野で10年以上の経験があっても国家自然科学基金から8万元を受け取っただけでしたが、2001～2008年にかけては85万元の資金（7年間で10倍増）を受け取りました。2008年以降、彼のチームは1200万元に上る研究プロジェクトの助成金（7年間で14倍増）を獲得しました。これには2012～2015年の「863計画」の主要移植技術の研究資金288万元も含まれます⁶。

2004年、人民解放軍の公式新聞『解放日報』は、上海市科学委員会が2002年に重要な多種臓器移植研究プロジェクトを設立したことを報告しています。心臓、肝臓、肺の移植における臨床研究を行う病院5軒（復旦大学附属中山医院、瑞金医院、第二軍医大学附属東方肝胆外科医院、上海第一人民医院、上海市肺科医院）に800万元を投資しました。2003年の上海での臓器移植件数は2001年の10倍増以上。上海の病院は臓器移植において「国内及び国際的にもトップの座」に就いたと報道されています⁷。

以下は、他の移植センターが最近始めたプロジェクト例です。

第四軍医大学西京医院肝胆胰脾外科の窦科峰（ドウ・カフェン）主任医師は、下記のプロジェクトを率いています。

• 「863計画」の小プロジェクト2件
• 「第11回五カ年計画」国家技術研究開発の主要プログラムのプロジェクト1件
• 国家自然科学基金の主要プロジェクト１件、その他のプロジェクト3件
• 軍隊臨床ハイテク主要プロジェクト1件
• 「第11回五カ年計画」軍隊科学技術研究分野で1件
• 軍隊「2110」プロジェクト3件
• 軍隊の特殊課題1件

現在行われている研究プロジェクトへの資金の合計は2000万元以上に上ります⁸。

西安交通大学臓器移植研究所は、「973計画」「第11回五カ年計画」国家技術研究開発プログラム、国家自然科学基金、省部委員会の重要課題など、46の国家及び省部のプロジェクトを最近率いています⁹。

武漢にある華中科学技術大学附属の同済医院臓器移植研究所は、過去10年に30以上の科学技術研究プロジェクトを請け負っています。下記に一部を挙げます。

• 863計画プロジェクト
• 973計画プロジェクト
• 国家自然科学基金の主要プロジェクト（複数）
• 衛生部（省）に委託された研究プロジェクト

過去5年間で同研究所は、410編の論文と11冊の書籍を出しています。論文のうち78編はサイエンス・サイテーション・インテックス（SCI）にリストされています¹⁰。

この他にも著名大学や附属病院、軍・民間の医学大学と附属病院のほとんどが臓器移植研究を急速に進めており、国家から多大な資金を受け取っています。

脚注